
昔は、退職というと、どこか後ろめたい空気があった。「裏切り」とまでは言わないけれど、辞めた人とは縁が切れる。送別会をして、それきり。そういうものだと、みんな思っていた。
その空気が、いま静かに変わってきている。キーワードは「アルムナイ」。もともとは卒業生という意味で、会社を辞めた人たち——元社員のネットワークを指す言葉。辞めた後もゆるくつながり続けて、ときには戻ってくる。そういう関係を、企業のほうから育てはじめている。
数字を見ると、これがもう一過性の流行ではないと分かる。
アメリカでは、いわゆる「出戻り社員(ブーメラン社員)」が、新しく入る人の一定割合を占めるようになった。専門サービスの業界では、新規採用のうち3割近くが出戻り、という調査もある。LinkedInの2024年のレポートによると、出戻り採用は2022年から35%増え、人事担当者の約7割が「元社員の再雇用に前より前向き」と答えている。理由は分かりやすい。外から採るより採用コストが半分ほどで済み、立ち上がりも4割ほど速い。知っている相手だから、ミスマッチも少ない。
日本も、そう遠くない。ある調査では、アルムナイ採用を実施している企業は約4割。支援サービスの市場は、2年で2.7倍に伸びたという数字もある。働く人の側でも、「一度辞めた会社に戻りたいと思ったことがある」人が、およそ3人に1人。出戻りは、もう珍しい選択ではなくなってきた。
私がおもしろいと思うのは、これが「雇用か、退職か」という二択を崩している点。
これまで、人と会社の関係は、入社と退職ではっきり区切られていた。中にいるか、外にいるか。そのどちらか。でもアルムナイは、その真ん中に「辞めたけど、つながっている」という第三の状態をつくる。元社員が、あるときは顧客になり、あるときは仕事を紹介し、あるときは本当に戻ってくる。関係が、切れずに続いていく。
これは、私たちがタレントバンクで考えていることと、地続きだと思っている。人と企業が、雇用という重い契約だけでなく、もっとゆるやかに、直接つながり続ける。辞めた後も、その人の価値は消えない。むしろ、外の世界を一度見て戻ってくる人ほど、頼りになったりする。
「辞めたら終わり」を前提にした働き方は、これから少しずつ古くなっていくんじゃないか。一度離れることが、次に組むための準備になる。そういう労働市場のほうが、たぶん健全だし、働く人にとっても、ずっと生きやすい。
出典(2024–2025年):出戻り採用の伸び・人事の意識=LinkedIn 2024 Workplace Report/専門サービス業の出戻り比率・採用コスト・立ち上がりの速さ=Workday 2025 alumni report ほか各種HR調査/日本のアルムナイ採用実施率(約4割)・支援サービス市場の伸び(2年で2.7倍)=HRプロ、マイナビキャリアリサーチLab(2024年調査)/出戻り意向(約3人に1人)=転職経験者調査。数値は調査主体により定義・推計が異なるため、幅を持って参照のこと。