
「8割が学び直し」と言うけれど
少し身構える数字を見た。これからの1年〜1年半で、働く人のおよそ8割が、AI関連の新しいスキルを身につけ直す必要がある——PwCと世界経済フォーラムが、そんな見立てを出している。企業の85%も、「今後はリスキリングに力を入れる」と答えている。学び直しの号砲は、もう鳴っているらしい。
ただ、その数字を眺めていて、ふと立ち止まった。「AIスキルを学び直す」と、みんな言う。でも、そのAIスキルって、そもそも何なんだろう。
学ぶそばから、変わっていく
まず引っかかるのは、変化の速さだ。いま私たちが使っているAIの使い方なんて、1年前には存在しなかった。この1年で劇的に変わったし、これから先の1年でも、たぶんまた劇的に変わる。
そうなると、「AIスキルを学び直す」と言っても、身につけたころには、もう次の何かに変わっている。積み上げようとした土台のほうが、先に動いてしまう。普通のスキルなら、覚えれば一定期間は使える。でもAIは、覚えた端から古くなっていく。ここが、他のスキルとはずいぶん勝手が違うところだと思う。
私自身、特別なスキルを使っている実感がない
もうひとつ、正直な実感を書いておきたい。私自身、いまAIをかなり使いながら仕事をしている。でも、そこに何か特別な「AIスキル」があるかというと、あまりそんな感じがしない。
プロンプトがうまく書けるとか、AIと流暢にやり取りできるとか、そういうことが本質ではない。やっていることを分解すると、「こういうものが欲しい」「いや、そうじゃなくてこうしてほしい」「ああしろ、こうしろ」という指示を、超高速で回しているだけだ。そして、それに的確に応えてくれるのがAIだ、というだけの話なんだと思う。
それは結局、「マネジメントの力」だ
前回のコラムでも近いことを書いた。この「AIスキル」の正体は、要するに、部下をマネジメントする管理職の能力なんじゃないか。
優秀な部下がいる。でも、ただ優秀なだけでは、成果は出ない。「この部下はこれが得意で、あれは苦手」というのを把握して、具体的に指示を出す。返ってきたものを見て、また指示する。最後にマネージャーが全体をまとめ上げて、ひとつの形に仕上げる。AIを使いこなすというのは、まさにこれと同じことをしている。AI時代とは、「めちゃくちゃ優秀な部下がいて、それを超高速でマネジメントして回していく」という状態なんだと思う。
だとすると、AIスキルというのは、マネージャーとしての能力そのものだ。何が欲しいかを描き、具体的に指示を出し、形に仕上げていく力。つまり、「ビジネスパーソンとして、どれだけ能力が高いか」という、昔からある話に戻ってくる。
いちばん普遍的な力が、いちばん効く
そう考えると、少し皮肉だ。AIという最先端の道具をいちばん活かせるのは、最先端のテクニックを覚えた人ではなく、ビジネスの組み立てができる人、人を動かした経験のある人だったりする。学ぶべきは、移り変わりの速い「AIの使い方」そのものより、その下にある、変わらない「仕事の力」なのかもしれない。
もっとも、ではそのビジネスの力、マネジメントの力を、これからどう育てていくのか——ここはまだ、私の中でもきれいに答えが出ていない。AIが優秀な部下だとして、その部下を使いこなすマネージャーは、どう育つのか。たぶん、そこがこれからの本当の宿題なんだと思う。