2026/08/13
給与

賃金は、誰が決めるのか

賃金は、誰が決めるのか

アメリカのある働き方のニュースに、目が留まった。

WorkWhileというサービスでは、働き手がシフトを選ぶとき、「時給いくら」ではなく「このシフトで総額いくらもらえるか」で選ぶ。しかもその金額は、需要と供給で動く。人手が足りない時間帯は上がり、余っていれば下がる。求人に応募するというより、値札のついた仕事の中から、自分で好きなものを取っていく感覚に近い。

数字も、なかなか。WorkWhileはいま265種類の職種をカバーし、AIが需要を予測して、「来週いくら稼げそうか」まで見せてくれる。継続率は2026年初めで約98%。背景には、アメリカの労働市場が抱える大きな不安がある。時給で働く人のうち、シフト変更を1週間前に知らされる人は、たった21%。来週の収入が読めない——その不安を、複数の仕事をひとつの場所にまとめることで埋めにいく。

こういう「自分で仕事と金額を選ぶ」市場は、じわじわ広がっている。ギグワークの規模は2026年でおよそ6,750億ドル。アメリカでは、働く人の3割以上が、なんらかの形でフリーランスやギグに関わっている、という推計もある。

いい話に聞こえて、逆の顔もある

ここまで読むと、いい話に聞こえるかもしれない。でも、同じ「変動する賃金」には、まったく逆の顔もある。

イギリスの労働組合の報告では、アルゴリズムが決める変動賃金は、むしろ賃金を押し下げ、収入を不安定にしている、と指摘されている。配車サービスでは、運転手の取り分が売上の5〜6割まで下がった例もある。「この人は、いくらまでなら受けるか」をデータから見抜いて値付けする——そんな使われ方すらある。

つまり、賃金が動くこと自体は、善でも悪でもない。問題は、その値段を、誰が決めているか。

ハンドルを、どちらが握るか

プラットフォームが、働き手の足元を見て値を下げるなら、それはただの搾取。逆に、働き手が「私はこの仕事を、この金額でやる」と自分から出せるなら、それは自由になる。同じ「ダイナミックな賃金」でも、ハンドルを握るのが企業か、働く人か。そこで意味は、正反対になる。

私たちがタレントバンクでずっと考えているのも、まさにそこ。「いくらで働くか」の決定権を、企業から働く人の側に戻す。時間の選択権の次は、価格の選択権。応募して選ばれるのを待つのではなく、自分の価値を自分で示して、値段をつけて差し出す。

そのために要るのが、裏づけ。何ができて、どんな実績があるのか。企業が付与したスキルの証明——スキルサティフィカ——を持っていれば、「私はいくら」に、ちゃんと根拠が乗る。値付けが、はったりではなく、事実になる。

WorkWhileのような動きは、その入口だと思っている。まだ「選べる範囲で選ぶ」段階だけれど、向きは合っている。あとは、値段を決めるハンドルを、どこまで働く人の手に渡せるか。そこが、これからの勝負どころ。

出典(2025–2026年):WorkWhileの職種数(265)・シフト予告が1週間前は21%・継続率(2026年初で約98%)=PYMNTS「Wage to Wallet」ほか/ギグ経済の規模(2026年で約6,750億ドル)・就業者に占める割合(3割超/Goldman Sachs 等)=各種調査/アルゴリズム変動賃金の弊害・配車運転手の取り分(売上の5〜6割)=英TUCレポート、Novara Media。数値は調査主体により定義・推計が異なるため、幅を持って参照のこと。

Popular posts

List category

List tag