2026/08/13
企業と人をつなぐ

スキルを、会社に置いてこない

スキルを、会社に置いてこない

転職や副業が当たり前になって、ひとつ、地味だけど大事な問題が残っている。「自分のスキルを、どう証明するか」。

これまで、スキルの証明は、だいたい会社の中に閉じていた。「あの案件を回した」「この資格を持っている」。でも、それを裏づけるものは、社内の評価や、紙の証書や、履歴書の自己申告くらい。会社を出たとたん、その多くは持ち出せなくなる。せっかく積み上げたものが、退職と一緒に、置き去りになる。

ここを変えようとしているのが、「デジタルクレデンシャル」や「オープンバッジ」と呼ばれる仕組み。

ざっくり言うと、スキルや資格を、改ざんできないデジタルの証明として発行する。誰が、何を、どういう基準で認めたのか。それがデータとして紐づいていて、本人が持ち運べる。会社にではなく、その人自身にひもづく。

数字で見ると、もう「これから」ではない

世界で発行されたオープンバッジは、2022年の約7,500万個から、2025年には3億2,000万個へ。3年でおよそ4倍。改ざんできない証明という意味では「ベリファイアブル・クレデンシャル」という市場も立ち上がっていて、2024年に18億ドル、2030年代前半には150億ドル超まで伸びると見られている(年率およそ30%)。アメリカでは、2025年までに雇用主の6割がバッジを正式な資格として扱うようになる、という予測もある。

日本も、ちゃんと動いている。オープンバッジ・ネットワークには、130を超える大学を含む324団体が加盟し、これまでに1万2,000種類以上のバッジが用意され、130万個のスキルがデジタルで記録されている。学びや資格が、少しずつ「持ち運べるデータ」に変わりはじめている。

スキルが、資産になる

私が大事だと思うのは、この流れが、スキルを「資産」に変えていく点。

お金は、口座に貯まっていく。目に見えるから、資産だと感じられる。でもスキルや経験は、これまで貯まっている実感が持ちにくかった。証明が、会社の中にばらばらに散らばっていたから。それが本人にひもづき、持ち運べるようになると、話が変わる。働いて身につけたものが、通帳の残高みたいに、自分の手元に積み上がっていく。

私たちがタレントバンクで考えているのも、まさにそこ。労働も、スキルも、会社に預けっぱなしにするのではなく、本人の資産として持てるようにする。

もうひとつ、付け加えておきたい。スキルというのは、たいてい「企業が付与するもの」。ある仕事を任され、こなし、認められて、はじめて身につく。だとしたら、その証明も、本来は企業が与えるもの。ところが、企業が与えたその価値を、ワーカーの側がきちんと保管して、持ち歩ける形にしておく——これが、これまでほとんどなかった。

タレントバンクのミッションは、ひとことで言えば「企業とつながる」。企業がスキルを与え、その人が受け取って、持ち運ぶ。今回のテーマと、実はぴったり重なっている。

世界中の企業が、タレントバンクを持つ

少し先の話もしておきたい。私は、規模の大小に関わらず、世界中のすべての企業が、自分の「タレントバンク(タレントプール)」を持つべきだと思っている。しかもそれは、いまの社員だけの話じゃない。①いま働いている人、②かつて働いていた人——アルムナイ、③これから働きたいと思ってくれている人——いわばファン。この3つの層がそろって、はじめて「タレントバンク」と呼べる。

ワーカーの側から見ると、もっと大事な変化がある。これまでは、企業が「この作業を、何年目だから、いくら」と値段を決めて、その決まった仕事に人が応募していた。これからは、逆。自分の価値はいくらなのかを、自分で知って、自分で示す。その「自分はいくらか」を裏づけるものとして、企業が与えたスキルの証明——スキルサティフィカ——が効いてくる。

証明が標準化されて、どの会社でも、どの国でも通じるようになれば、働く人はもっと自由に動ける。スキルを会社に置いてくる時代は、そろそろ終わりにしていい。

出典(2024–2025年):オープンバッジ世界発行数(2022年7,470万→2025年3億2,040万)=1EdTech「2025 Badge Count」/ベリファイアブル・クレデンシャル市場(2024年18億ドル→2033年156億ドル、CAGR約29%)=各種市場調査/雇用主のバッジ受容予測=業界調査/日本のオープンバッジ普及(324団体・1万2,000種類・130万スキル)=一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク。数値は調査主体により定義・推計が異なるため、幅を持って参照のこと。

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