
仕事が減ったとき、会社はどうするか
景気が悪くなって、仕事が減る。そのとき会社が取れる道は、大きく二つある。人を減らすか、一人ひとりの働く時間を減らしてみんなで耐えるか。
人を減らせば、目の前のコストは下がる。でも、景気が戻ったときに、また一から人を探さなければならない。育ててきた人も、現場をよく知っている人も、もういない。
ドイツの「クルツアルバイト」
ドイツには、この二つ目の道を国が支える仕組みがある。「クルツアルバイト(Kurzarbeit)」、日本語にすると操業短縮だ。
仕事が減った会社が、従業員を解雇する代わりに労働時間を短くする。減った分の給料は、国の雇用保険から「操業短縮手当」としておおむね6〜7割が補われる。働く人は会社に籍を置いたまま、仕事が戻るのを待てる。
この仕組みが一気に使われたのが、リーマンショックとコロナ禍だった。2009年5月のピーク時には約140万人、2020年4月には約600万人がクルツアルバイトの対象になった。ある研究機関の推計では、コロナ禍のピーク時に、これで約220万人分の雇用が守られたという。以前の不況では失業者が倍になることも多かったが、2020年のドイツの失業者は230万人から270万人への増加にとどまった。
いまも使われ続けている。自動車や機械などの製造業が苦しい中で、2025年も年平均で約30万人がこの制度を使った。国は手当を受けられる期間を、通常の12か月から最長24か月に延ばしている。
待つだけでなく、学ぶ
ドイツはここに、もう一歩を足した。2024年4月に始まった「資格取得手当(Qualifizierungsgeld)」だ。
産業の構造が変わって、社員の多くに新しいスキルが必要になった会社が、社員を辞めさせずに学び直しに出す。その間の給料を、国が操業短縮手当と同じ水準で補う。会社は研修の費用を負担する。
仕事が減ったら、手を離すのではなく、つながったまま待つ。そして、待っている時間を、次の仕事のために使う。そういう発想だと思う。
日本も、似たことをしていた
日本にも、雇用調整助成金という同じ考え方の制度がある。コロナ禍では、休業した社員の給料を国が支える特例が続き、支給は累計で6兆円を超えた。国の推計では、2020年の完全失業率の上昇を2.6ポイントほど抑えたという。
もうひとつ、日本らしい動きもあった。「在籍型出向」だ。仕事が止まった航空会社の社員が、会社に籍を置いたまま、別の会社で一時的に働く。辞めずに、つながったまま、外で働く。国もこれを助成で後押しした。
つながっていれば、すぐ戻れる
もちろん、こうした仕組みには批判もある。お金がかかるし、本当は伸びている業界に人が移るのを止めてしまう、という指摘もある。
それでも、ひとつはっきりしていることがある。つながりを切らずにいた会社は、景気が戻ったとき、すぐに動ける。仕事を知っている人が、そこにいるからだ。いったん手を離してしまえば、その人はもう戻ってこないかもしれない。
私たちの視点
私たちは、会社と人のつながりは、雇用契約があるかどうかだけで決まるものではないと考えている。いま一緒に働いている人だけでなく、いったん離れた人、別の会社で働いている人とも、つながっておける。それが会社のタレントプールだ。
国の制度がなくても、会社が自分で「手を離さない」ことはできるはずだ。仕事が減った時期に、一時的に離れてもらう人とも、つながりを切らない。仕事が戻ったら、まずその人たちに声をかける。不況のたびに一から人を探し直すより、ずっと強い会社になれるんじゃないか。
仕事が減っても、つながりは減らさない
景気には波がある。仕事が減る時期は、どの会社にもいずれ来る。
そのときに、人を切るのか、つながったまま待つのか。ドイツは国ぐるみで後者を選び続けてきた。仕事は減っても、つながりまで減らす必要はない。そう考える会社が増えれば、働く人も、もっと安心して一つの会社とつながっていられるのかもしれない。
出典:Kurzarbeitergeld(SGB III、純所得減少分の60%/子ありは67%)/対象者数=2009年5月約140万人・2020年4月約600万人、IMK等推計=コロナ禍ピークで約220万人分の雇用確保(リーマン時は約33万人)、失業者は230万→270万人(iamexpat.de、Rheinpfalz等報道)/連邦雇用庁(BA)年次報告=2025年の年平均クルツアルバイト約30万人(暫定)/第4次受給期間延長令(4. KugBev)=最長24か月、2026年12月31日まで(Bundesregierung、BA)/Qualifizierungsgeld(§82a SGB III、2024年4月1日施行、操業短縮手当と同水準、構造転換で従業員の20%〈中小10%〉以上に再教育が必要な場合、研修費は企業負担)/日本:雇用調整助成金(緊急雇用安定助成金含む)コロナ特例の累計支給約6兆55億円(2022年8月26日時点、厚労省)、2020年4〜10月の完全失業率上昇を約2.6pt抑制(労働経済白書2021)/在籍型出向(産業雇用安定助成金)。