2026/10/14
企業と人をつなぐ

「雇う側」と「働く側」のあいだに、もうひとつ——EUが決めたプラットフォームの責任

雇う側と働く側のあいだに

業務委託は、本来「対等」な関係

業務委託という働き方は、本来、発注する側と受ける側が対等な関係だ。「この仕事を、この金額で、いつまでに」と約束して、やり方は受ける側に任される。どちらかといえば請負に近い。

だから、細かく指示を出し、時間や場所を縛り、言うことを聞かなければ外す。そうなった時点で、それは業務委託ではなく、実態は雇用だよね、という話になる。命令する側と、受ける側。その関係があるなら、雇う側としての責任を負うべきだ、という考え方だ。

日本でいう「偽装請負」の議論とも同じで、昔からある請負契約の考え方の延長線上にある。ここまでは、すんなり理解できると思う。

新しいのは、「証明する責任」の置き場所

EUが2024年に決めたプラットフォーム労働指令も、出発点はこの考え方だ。アプリなどを通じて働く人に、指揮や管理の実態があれば、雇用関係があると推定する。

大きいのは、その先。「雇用関係ではない」「指揮命令はしていない」と証明する責任を、働く人ではなく、プラットフォームの側が負う。

これまで、働く関係に出てくるのは「雇う側」と「働く側」の二者だった。そこに、「プラットフォーム」という三つめの存在が入ってきた。仕事を割り振り、単価を決め、評価をつけるのはアプリだ。指令は、プラットフォームを通じて働く場合には、そのプラットフォームが「これは雇用ではない」と証明しなさい、と決めた。働く人が「自分は実質的に雇われている」と一から証明しなくてもいい。仕組みとしては、かなり踏み込んだものだと思う。

背景には数字がある。欧州委員会の推計(2021年)では、EUでプラットフォームを通じて働く人は約2,830万人。そのうち約550万人は、働き方をプラットフォームにかなり管理されているとみられている。一方で、プラットフォームで働く人の約9割は、形式上は自営業者だ。

アルゴリズムだけで、人を辞めさせない

もうひとつの柱が、アルゴリズムの扱いだ。

ここでいう「アルゴリズム」は、指令の中では二つに分けて書かれている。ひとつは、働きぶりを自動で監視・評価する仕組み。もうひとつは、働く人に大きく影響する判断を自動で下す、あるいはその判断を支える仕組み。具体的には、誰に仕事を回すか、1件いくらにするか、評価をどうつけるか、そしてアカウントを止めるかどうか、といった判断だ。

実際に問題になった例がある。イタリアでは、フードデリバリーのDeliverooが、配達員を「予約した時間にちゃんとログインしたか」「忙しい時間帯に稼働したか」でスコア化し、点の高い人から好きなシフトを選べるようにしていた。ところが、休んだ理由が病気でも、ストライキでも、同じように点が下がる。2020年末、ボローニャの裁判所はこれを差別的だと判断した。オランダでは2021年、Uberが自動処理だけで運転手のアカウントを停止したとして、裁判所が6人の復帰を命じている(Uber側が争わなかった欠席判決)。

稼働実績、低い評価、利用者からの苦情。そうしたデータが積み上がって、ある日、アプリから締め出される。指令は、アカウントを制限・停止・解除するような判断は、自動の仕組みだけで決めてはいけない、人が判断しなさい、と定めた。働く人は理由の説明を受け、見直しを求めることもできる。しかもこのルールは、雇用か自営かに関係なく、プラットフォームで働くすべての人に適用される。

加盟国は、2026年12月2日までにこれを自国の法律にする。オランダはすでに法案を公表し、イタリアやドイツも準備を進めている。

日本では、まだ「働く側」が証明する

日本でも、業務委託として働く人が「実態は労働者だ」と認めてもらう道はある。ただ、基本的には働く側が、指揮命令を受けていた実態を示していく形になる。

ウーバーイーツの配達員の例では、組合が2020年に東京都労働委員会に申し立て、2022年にようやく「労働組合法上の労働者」と認められた。会社側はこれを不服として再審査を申し立てている。働く側が証明しようとすると、それだけ時間がかかる。

一方で、日本のスキマバイトの多くは、お店や会社と働く人が直接、雇用契約を結ぶ形をとっている。誰が雇っていて、誰が責任を負うのかが、最初からはっきりしている。欧州とは、少し違う道を歩いているともいえる。

誰が責任を負うのか、を最初から見えるように

結局、この指令が問いかけているのは、「誰が、働く人に責任を負うのか」だと思う。

プラットフォームが間に入ると、便利になる一方で、雇う側の顔が見えにくくなる。仕事を割り振るのも、評価をつけるのも、辞めさせるのも、気づけばアプリになっている。EUは、そこをあいまいにしたままにはしない、と決めた。

私たちの視点

私たちが目指しているのは、システムやプラットフォームが間に入って人を動かす世の中ではない。企業と働く人が、直接つながる世の中だ。

直接つながっていれば、誰が仕事を頼み、誰が責任を負うのかは、最初からはっきりしている。評価も判断も、顔の見える相手どうしでやりとりできる。仕組みは、人を管理するためではなく、企業と人がつながるための道具であればいい。EUの指令は、遠回りにその順番を確かめているようにも読める。

まず、つながりをはっきりさせる

アプリで仕事を受ける働き方は、これからも広がっていく。それ自体は、いいことだと思う。

ただ、そのとき大事なのは、働く人が誰とつながっていて、誰が責任を持っているのかが見えていること。間に何かを挟むほど、それは見えにくくなる。欧州の動きは、そのことを先にルールにしたものなのかもしれない。

出典:EU指令(EU)2024/2831(2024年10月23日採択・11月11日官報掲載・12月1日発効、国内法化期限2026年12月2日)/欧州議会プレスリリース/Policy Window(条文要約)/欧州委員会推計2021(ELA misclassification study 2025に引用)/Littler・Global Workplace Insider・DLA Piper(各国状況、2026年)/ボローニャ裁判所2020年12月(Deliveroo「Frank」)/アムステルダム地裁2021年4月(Uber、欠席判決)/都労委ウーバーイーツ命令2022年11月25日(会社側は中労委に再審査申立て)。

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