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一社では、一年中の仕事がない
地方の小さな事業者と話していると、よく聞く悩みがある。人がほしい時期はある。でも、一年中は雇えない。
田んぼの仕事は、田植えと稲刈りの時期に集中する。温泉宿が忙しいのは夏と連休。スキー場は冬だけ。酒蔵も冬が本番だ。どの事業者も、忙しいときは人が足りないのに、暇な時期には払える給料がない。だから正社員を雇えない。働く側から見ても、季節の仕事だけでは暮らしが成り立たないから、その町には来られない。
でも、忙しい時期は、会社ごとに違う
ここで、地域全体を見渡してみる。
春は田植え、夏は温泉宿、秋は稲刈り、冬はスキー場や酒蔵。一社ずつ見ると「一年中の仕事がない」のに、地域全体で見ると、どこかで必ず人が足りていない。だったら、一人の働き手が、季節ごとに地域の事業者を回ればいい。
国がつくった「地域で人を雇う」仕組み
この考え方を、国が仕組みにしたのが「特定地域づくり事業協同組合」だ。2020年に始まった制度で、人口が急に減っている地域の事業者が集まって組合をつくり、組合が働き手を通年で雇う。そのうえで、季節や曜日に合わせて、地域の事業者に派遣する。組合の運営費の半分は、国と市町村が支える。
総務省の資料には、具体的な働き方が載っている。山形県小国町の組合では、ある職員は春に田植え、夏は温泉旅館、秋に稲刈り、冬はスキー場で働く。別の職員は、春から秋まで田んぼで働き、冬は酒蔵に入る。月給は18万円。一年を通して、ひとつの町の中で働き続けられる。
奈良県川上村の組合では、これまでに13人を雇い、そのうち5人が、派遣先の事業者にそのまま直接雇われている。いろいろな事業者で働くうちに、ここで働きたい、という場所が見つかったということだと思う。
一社のつながりが、地域のつながりになる
この仕組みのいいところは、働く人と地域の事業者のあいだに、たくさんのつながりが生まれることだと思う。
一年で四つの職場を回った人は、町の四つの事業者を知っている。事業者の側も、「去年の秋に稲刈りを手伝ってくれた、あの人」を知っている。一社だけでは持てなかったつながりを、地域全体で持てるようになる。言ってみれば、地域のタレントプールだ。
そして、そのつながりの中から、川上村のように「この会社で働きたい」「この人に来てほしい」が生まれる。いきなり求人を出して知らない人を探すより、ずっと自然な出会い方だと思う。
町の外にも、この地域が好きな人がいる
そして、このプールは、町の中だけで閉じている必要はないと思う。
その町の出身で、いまは都会で働いている人がいる。いつか戻りたいと思っている人もいる。旅行で何度も訪れて、すっかり好きになった人もいる。国の推計では、住んでいる場所とは別の地域に定期的に関わっている「関係人口」は、全国で約1,800万人いる。Uターン、Iターンという形で移り住む人もいれば、移り住まなくても、その町と関わり続けたい人もいる。
しかも、いまは現地に行かなくても手伝える仕事がたくさんある。宿のホームページを直す、特産品の通販を手伝う、予約や問い合わせに対応する、帳簿をつける。繁忙期だけ現地に来て、それ以外の季節は遠くから関わる、という人もいるだろう。体を動かして関わることも、離れた場所から関わることも、どちらもその地域とのつながりだ。
私たちの視点
私たちが考えているのは、小さな会社が一社だけでタレントプールを持つ形ではない。地域全体でタレントプールをつくり、それをみんなで共有していく形だ。
春に田んぼを手伝ってくれた人に、夏は隣の温泉宿が声をかける。町を離れた出身者に、地元の会社が「この仕事、手伝ってもらえないか」と頼む。何度も来てくれている旅行者が、遠くから宿の仕事を手伝う。一社ではつながれなかった人とも、地域としてならつながれる。町の中にいる人も、町の外からこの地域を気にかけている人も、同じプールの中にいる。そういう使い方をしてもらえたら、と思っている。
まず、地域でつながっておく
一社で一年中の仕事をつくるのは、難しい。でも、地域で見れば、仕事は一年中ある。そして、その地域とつながりたい人は、町の外にもいる。
雇えないから諦めるのではなく、地域で人を融通し合う。近くからも、遠くからも、一度関わってくれた人とつながっておく。人の少ない町ほど、そのつながりの厚みが、これからの強さになるのかもしれない。
出典:総務省「特定地域づくり事業協同組合制度の概要について」(令和7年10月)=人口急減地域で組合が職員を雇用し組合員事業者へ派遣、組合運営費の1/2を公費支援(国1/2・市町村1/2)、10年更新制、令和7年3月改正で市町村への派遣を員内利用の50%まで緩和/事例:おぐにマルチワーク事業協同組合(山形県小国町、令和3年11月認定、月収18万円、職員A=田植え→温泉宿泊施設→稲刈り→スキー場、職員B=農業→酒造業)、事業協同組合かわかみワーク(奈良県川上村、これまで13名雇用・5名が派遣先へ直接雇用)/制度の根拠=地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律(2020年6月施行)。/国土交通省推計=関係人口(特定の地域に継続的に関わる人)約1,800万人(18歳以上の居住者の約2割)。