
求人を出しても、来ない。来ても、合わない
お店の人と話すと、悩みはだいたい二つに分かれる。募集を出しても、人が来ない。やっと来ても、すぐ辞めてしまう。
働く側に聞くと、理由が少し見えてくる。エン・ジャパンの調査(2020年)で、求人に応募する前にいちばん知りたいことを聞くと、トップは「職場の雰囲気」で61%だった。時給や条件よりも、まず「どんな場所で、どんな人と働くのか」が知りたい。そして、アルバイトが辞める理由として、いつも上位に挙がるのが「人間関係」だ。
つまり、求人票には書ききれない「雰囲気」が、応募の入口でも、辞める出口でも、大きく効いている。
働く人のほとんどは、最初はお客さんだった
ここで、少し見方を変えてみたい。その「雰囲気」を、すでによく知っている人たちがいる。お客さんだ。
飲食やサービスの現場を見ていて、つくづく思う。そこで働いている人のほとんどは、最初はお客さんとして、そのお店に来た人たちだ。一度も来たことがないお店で、いきなり働きはじめる。そういうケースは、実はかなり少ないんじゃないか。
何度か通って、雰囲気が好きになって、スタッフの顔も覚えて、「ここで働くのもいいな」と思う。昔からお店の入口やレジ横に「スタッフ募集」の貼り紙があるのも、そのためだと思う。お店のことを知っている近所のお客さんが、いちばん応募しやすいからだ。
ファンになって、それから働く
つまり、人はたいてい、こういう順番をたどっている。まずお客さんとして出会う。気に入って、ファンになる。そして、あるとき働き手になる。
これは、誰かが考えた理屈ではない。人がもともと、ごく自然にとっている行動パターンだ。いきなり見知らぬ会社に飛び込むより、好きになった場所で働きたい。当たり前といえば、当たり前の話だと思う。
最近は企業も、ファンを大事にしはじめている。ワークマンは愛用者に声をかけて商品開発に加わってもらい、無印良品もファンとアイデアを出し合って商品を生み出してきた。お客さんを、一緒に会社をつくる仲間として見る流れだ。ただ、その仲間を「いつか働くかもしれない人」としても見ている会社は、まだ多くない気がする。
ファンは、会社の「プール」になる
もちろん、今日来たお客さんが、明日からすぐ働けるわけではない。でも、それでいいと思う。
今は学生でも、来年は時間ができるかもしれない。子育てが落ち着いたら、近所で少し働きたくなるかもしれない。転職を考えたとき、「そういえば、あのお店が好きだった」と思い出すかもしれない。そのときに、つながりが切れていなければ、声をかけられる。
募集をかけて、まったく知らない人を一から探すのか。それとも、すでにお店を好きでいてくれる人に、声をかけるのか。後者のほうが、ずっと早くて、ずっと確かだ。ファンは、会社にとっての「タレントプール」になる。
私たちの視点
私たちは、会社のタレントプールを、三つの層で考えている。いま働いてくれている人(現在)、かつて働いてくれた人(過去)、そして、これから働くかもしれない人(未来)。その「未来」の中心にいるのが、ファンだ。
これは、新しい理屈を持ち込もうとしているわけではない。お客さんとして出会い、ファンになり、やがて働く。人がもともとやっているその行動の流れに、そのまま沿った形にしているだけだ。だからこそ、企業がファンとつながっておけるようにしたい。買ってくれる人として、だけではなく、いつか一緒に働くかもしれない人として。
お客さんを、お客さんのままで終わらせない
人が来ない、と嘆く前に、毎日来てくれている人の顔を思い浮かべてみたい。その中に、いつか一緒に働いてくれる人がいるかもしれない。
お客さんを、お客さんのままで終わらせない。まず、ファンとつながっておく。それが、いちばん自然で、いちばん確かな採用の入口なんだと思う。