
「固定されたチーム」が、過去になりつつある
シスコのある役員が、こんなことを言っていた。「人と機械が組んで、その場でサッと集まる。固定されたチームは、もう過去のものになりつつある」。へえ、と思った。チームって、期の頭に決めて一年やっていくもの、となんとなく思っていたから。
デロイトが2026年に出した『グローバル・ヒューマンキャピタル・トレンド』——89カ国・9,000人超のリーダーに聞いた、この分野で最大級の調査——も、同じ方向を指している。これからの3年で自社の一番の強みは何か。67%が「速さと機敏さ」だと答え、「規模」だと答えたのは28%だった。そして、その速さをつくる鍵として挙がったのが、「オーケストレーション」。人・スキル・技術を、必要に応じてその場で集めて組み替え続ける動きだ。重要度は今年のトレンドで1位、88%が「重要」と答えた。ところが「うまく進められている」は、たった7%。この81ポイントの差が、今年いちばん大きな「わかっているのに、できていない」だったという。
「配置」と「指揮」は、違う
デロイトはいい例えを使っていた。楽団でいう「配置」は、この人にこのパートを割り振る作業。いっぽう「オーケストレーション」は、指揮者の仕事だ。曲の流れを見ながら、その場でバランスを取り、ひとつの音楽にまとめていく。
採用に引きつけると、人を採ってポジションに固定する、が「配置」。従来はこれでやってきた。これからは、採った人を課題に合わせて動的に束ね直す。指揮者のいる会社へ近づいていく。人の集め方も、Buy(採る)・Borrow(借りる)・Build(育てる)に、AIを使うBotが加わり、さらに人とAIを混ぜる・底上げする・壁を越えて動かす・仕事そのものを組み替える、と広がっている。
ただ、全部が「束ねる」話ではない
ここで、ひとつ整理しておきたいことがある。会社の業務には、「作業」と「仕事」がある、と私は考えている。
「作業」は、すでに仕組み化されているもの。1年これをやって、異動があって、また回して……という、会社の売上のベースをぐるぐる回している部分だ。ここは、そもそも安定して回ることに価値がある。チームをその都度束ね直すような動きは、あまり関係ない。
いっぽう「仕事」は、決まったことを決まった通りにやることではない。業務を改善したり、自分たちの強みを活かして、新しく何かを生み出したりすること。スキルを管理して、束ねてチームを作り、終われば解散する——このオーケストレーションの話は、まさにこっち、「仕事」の話なんだと思う。会社全体で見ると、作業と仕事では、求められるボリュームも性質も、ずいぶん違う。だから「これからは全部その場で束ねる」ではなくて、束ねる価値があるのは「仕事」のほう、と切り分けて考えたい。
「束ねる力」は、AIを使いこなす力でもある
もうひとつ、オーケストレーションと聞いて、すぐイメージしたことがある。AIの自動化や、エージェントの活用だ。
AIをうまく使いこなせる人と、そうでない人。その差は、まさにこの「束ねられるか」にあると思っている。若い人にAIエージェントを渡しても、うまく回らないことが多い。理由は、たぶんスキルの問題ではない。部下に指示を出して動かし、返ってきたものを見て、また新しい指示を出す——そのマネジメントの経験が、まだないからだ。
オーケストレーションとは、一人ひとりの技術やテクノロジーの特性を把握して、適材適所で指示を出し、動かしていくこと。いろんなテーマに対して、必要な能力を集め、使いこなし、結果に結びつける。この指揮者の力量が、これからものすごく重要になる。相手が人でも、AIエージェントでも、束ねる構造は同じだからだ。
この力を育てるのは、正直、簡単ではない。経験を積むしかない部分も大きい。でも、これからのAIの使い方でも、組織づくりでも、避けて通れない取り組みになっていくと思っている。
束ねるには、「見えている」ことがいる
指揮者は、どの奏者が何を弾けるか分からなければ、振りようがない。束ね直すには、その前に、誰が何をできるのかが社内で見えていないといけない。
私たちがずっと、すべての企業が自社の「タレントバンク」を持つべきだと言ってきたのも、ここにつながる。いま働いている人、かつて働いていた人、これから働きたい人。この3層が見えていて初めて、必要なときに必要な人を束ねられる。採用を、ポジションを埋める一回きりで終わらせず、束ね直せる「資産」として持っておく。そして一人ひとりが「何をできるか」を裏づけるのが、スキルサティフィカ(企業が付与するスキルの証明)だ。スキルが証明されて見えるようになれば、束ねる側も、束ねられる側も、動きやすくなる。
配置から、指揮へ
面白いのは、デロイトの調査で、オーケストレーションが得意な会社は、そうでない会社より、業績が良いと答える割合も、働く人にやりがいを提供できていると答える割合も、およそ2倍だったこと。束ねるのがうまい会社は、速いだけでなく、たぶん働きやすくもある。
人を、置く。から、束ねる。へ。ただし束ねるのは「仕事」のほうで、束ねる力は、人もAIも動かせる指揮者の力だ。その真ん中に、「誰が何をできるか」が見えているタレントバンクがある。指揮者を育てられる会社が、これから強くなるんじゃないか。