2023/12/21
IPOは通過点

2023年10月より新規株式公開(IPO)のルールが一部変更になりました

 

上場時の公開価格が実態よりも低くなっているとの批判を受け、新興企業が資金調達しやすい環境を整備して市場活性化につなげるため、日本証券業協会等は、IPOの値決めに関するルールの改善策をとりまとめ、2023年10月1日付で内閣府令を改正施行しました。
今回の変更点は大きく分けて3つあり、2023年10月1日以降に、金融商品取引所により上場が承認されたIPO銘柄(DAIWA CYCLE以降)から適用対象となっています。

1.仮条件の範囲外での公開価格設定


これまでの公開価格は仮条件の範囲内で設定されていましたが、今後はより需要を踏まえた公開価格を決定できるようにするため、「一定の範囲」(※)内であれば、ブックビルディングをやり直すことなく、仮条件の範囲外でも公開価格の設定が可能となりました。

 

 

2.売出株式数の柔軟な変更


公開価格の設定と同時に、売出株式数の変更も「一定の範囲」(※)内で可能になりました。
「一定の範囲」とは、次の①~③全てを満たす範囲です。

 

① 公開価格が仮条件の下限80%以上かつ上限120%以下の範囲内で決定されること
② 「公開価格決定時の売出株式数」が「仮条件決定時の売出株式数」の80%以上かつ120%以下の範囲内であること
③ 「公開価格決定時のオファリングサイズ(株式数×公開価格)」が、
「仮条件下限×仮条件決定時の株式数×80%以上かつ仮条件上限×仮条件決定時の株式数×120%以下」の範囲内であること

(日本証券業協会「IPOにおける公開価格の設定プロセスの変更点・留意点等について」より引用)

 

 

【具体例】

 仮条件決定時の条件
  ・仮 条 件 1,000円~1,200円
  ・募集株式数 100,000株
  ・売出株式数 100,000株

   ↓ 一定の範囲は下記の通りです。

① 公開価格 800円 以上 1,440円 以下
 800円⇒仮条件下限1,000円の80%(1,000円×80%)
 1,440円⇒仮条件上限1,200円の120%(1,200円×120%)

② 売出株式数 80,000株 以上 120,000株 以下
 80,000株⇒仮条件決定時の売出株式数10万株の80%(10万株×80%)
 120,000株⇒仮条件決定時の売出株式数10万株の120%(10万株×120%)

③ オファリングサイズ 160,000,000円 以上 288,000,000円 以下
 160,000,000円⇒募集売出株式数20万株×仮条件下限1,000円×80%
 288,000,000円⇒募集売出株式数20万株×仮条件上限1,200円×120%

 

2023年12月12日に上場した「ブルーイノベーション」が仮条件の範囲外で公開価格を決定しましたので、届出書を確認してみましょう。

 

【2023年11月24日 仮条件決定時の訂正届出書】
仮条件は、1,220円以上1,320円以下で決定しましたが、需要状況によっては976円(仮条件下限の80%)以上1,584円(仮条件上限の120%)以下の範囲で決定する可能性がある旨、記載されています。

 

(EDINET提出書類ブルーイノベーション株式会社(E39114)訂正有価証券届出書(新規公開時)より引用)

 

【2023年12月4日 公開価格決定時の訂正届出書】
需要が旺盛だったこと、仮条件の上限を上回る価格にも需要が多く申告されたことなどの理由により、仮条件上限120%の1,584円で公開価格が決定されました。

 

(EDINET提出書類ブルーイノベーション株式会社(E39114)訂正有価証券届出書(新規公開時)より引用)

 

 

 

3-1.上場日程の期間短縮


 

市場環境等の変化による価格変動リスクを低減するために、上場承認日から上場日までの期間を短くできるようになりました。
上場承認日に提出している有価証券届出書を上場承認前に提出し、必要な手続きを早期化する「承認前提出方式」での上場が可能になります。
「承認前提出方式」では、今まで上場承認日から上場日まで約1か月かかった期間を約3週間に短縮することが可能になりました。
今後は、「承認前提出方式」と従来の上場承認日に有価証券届出書を提出する「承認時提出方式」のどちらかを発行会社が選択可能になります。

 

「承認前提出方式」では、届出書提出後、機関投資家への需要状況の調査は可能ですが、一般投資家への案内は「承認時提出方式」と同様に上場承認日以降となります。

 

(日本証券業協会「IPOにおける公開価格の設定プロセスの変更点・留意点等について」より引用)

 

 

 

3-2.上場日程の柔軟化


 

今まで上場承認時の有価証券届出書や目論見書に特定の上場日を記載していましたが、1週間程度の範囲内での上場日程(条件決定日、申込期間、払込期日、株式受渡期日、上場日等)を記載することが可能になりました。
また、上場承認後の市場環境等を踏まえ、時機をとらえた上場を可能とする観点から、訂正届出書の提出による上場日の変更等が可能となりました。

 

2023年11月16日に上場した「Japan Eyewear Holdings」が上場日の柔軟化に対応していましたので、届出書を確認してみましょう。

 

【2023年10月12日 上場承認時の届出書】
発行価格決定日が11/8~11/14のいずれかに決定する予定であること、それにともない申込期間・払込期日・受渡期日が変更になる旨、記載されています。

 

(EDINET提出書類Japan Eyeware Holdings株式会社(E39074)有価証券届出書(新規公開時)より引用)

 

【2023年12月12日 公開価格決定時の訂正届出書】
発行価格の決定と同時に、申込期間・払込期日・受渡期日の日程が確定しました。

 

(EDINET提出書類Japan Eyeware Holdings株式会社(E39074)訂正有価証券届出書(新規公開時)より引用)

 

まとめ


今回のルール変更で注意が必要となるのは、個人投資家の場合、ブックビルディング(需要申告)の申込時です。
仮条件上限価格の指値で申込みを行なうと、価格が仮条件上限の120%で決定した場合は、抽選の対象外となってしまいます。
また、上場日程の柔軟化により、ブックビルディングの日程が最長日まで行われない可能性があります。
購入したいIPO銘柄のブックビルディングは、早めに成行での申込を行いましょう。

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引用元・参考文献URL
https://www.jsda.or.jp/shijyo/minasama/ipo_syousai.pdf
EDINET (edinet-fsa.go.jp)

 

執筆者S.A

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