2023/12/26
IPOは通過点

IPOは通過点 #3

冒頭挨拶


池田:株式会社PaymentTechnology(以下、PaymentTechnology)がお送りするスタートアップを応援するラジオ番組「IPOは通過点」。パーソナリティの池田です。
盛り上がった前回に続いて、今回も主幹事難民についてお話を伺っていこうと思います。

 

主幹事難民が起こる理由とは


上野:前回まで、上場における主幹事証券会社の役割、仕事内容についてを詳しく説明してきました。
そもそも主幹事難民が起こる理由ですが、実は主幹事をやっている証券会社は5つ。
野村、大和、日興、みずほ、SBI。この5つの証券会社が主幹事業をやっています。

ざっくりとした数字ですが、各社150社ずつ契約をしていて、だいたい約750社が上場を目指しています。
それがひとつのマーケット規模。ただ、主幹事を決めて契約をするタイミングは、いわゆる直前々期の中間ぐらい。
それくらいに主幹事を決めるケースが非常に多くなっています。そこから、さかのぼること半年前から1年前。
そのタイミングが監査法人と監査契約を結んでいる時期なんです。でも、監査法人契約をしていても主幹事契約をしてない会社も当然あります。パイとすると監査法人の方が大きくて、主幹事契約が少ない。

では、監査法人はどれくらい契約を結んでいるのか。先ほど証券会社は約750社と契約と伝えましたが、(監査法人は)証券会社の1.5倍から約2倍だと想定されます。およそ1000〜1500社くらいが上場を目指そうと監査法人と契約している会社の数です。当然、契約する会社は入れ替わりもあります。

天野:はい。

上野:上場したら約750社から卒業します。その数は年間で約100社。上場すると、その100社分の席が空きます。
その席数が監査法人から流れてきて、新たに契約を結ぶことになります。
それから、もうひとつ。ドロップアウトする企業もあり、それがだいたい100社だと仮定しましょう。上場する会社とドロップアウト組を合わせて約200社。その席が空きます。
その席に監査法人と契約したところが流れていきますが、そこで契約されない会社があふれます。

澤野:なるほど。

上野:当然ですが監査法人と契約したからには上場したいわけです。
先ほど監査法人と契約する起業の数は1.5〜2倍と言いましたが、約250〜750社ぐらいの企業が監査法人とは契約したけれども、証券会社と契約できなかった会社の数になります。これが、巷で「主幹事難民」と呼ばれる企業の母数ですね。

池田:なるほど。では、これから上場していこうとする場合に、監査法人の監査を受けて、いざ主幹事を探そうという時に断られてしまったり、受け皿がなかったりする。

前回のお話で監査難民の歴史に触れましたが、監査難民はいわゆるビッグ4がいろいろな中小の監査法人も監査できるようになったために改善されていったと思うんですね。
同じように今、証券会社も5社が主に主幹事をやっていますが、他にもたくさん証券会社があります。監査難民と同じように受け皿が広がっていけば、難民問題は解消されるのではないでしょうか。主幹事難民ではできないのでしょうか?

上野:いいご指摘です。今、だいたい年間で100社が上場しています。
でも、2006〜2008年あたりだったと思いますが、年間で200社近く上場した年があるんですよ。

池田:はい。

上野:今の倍ですね。その時は何があったか。主幹事証券の数が多かったんです。
今は5社ぐらいで話していますが、確か十数社の証券会社が主幹事業をしていたんですよ。

一同:ええ!?

引き受けマンの能力について


上野:そういう時代はやっぱり数が増えているんですね。だから日本における上場会社の数を増やそうと思うと主幹事証券の数を増やせば、増えます。でも、ここで問題になってくるのが、会社そのものではなく中にいる人。
上場に導くためコンサルタントの数が圧倒的に足りないんです。上場するために導く人たちにどういう能力が必要かというと、まず会計の知識。証券の知識。それから労務。会社法。会社経営。
それらが全部頭の中に詰め込まれたサラリーマンはなかなかいないでしょう。

天野:そうはいないですね。

上野:はい。でも、人材を育てて現場に投入しないと、上場のコンサルタントとしては不十分。

池田:証券会社は人を育てなければいけない。教育コストが膨大にかかるんですね。

上野:そう。さらに教育もそうだけれど、維持コストがかかる。

澤野:この5大能力を携えたスーパーマンの人件費は高いですよね。

上野:高いですよ。だいたい1000〜2000万。150社を維持するためには、どんなに少なくても10人以上の引き受けが絶対に必要なんです。すると、人件費が約1億円かかる。そういう事が起こるんですけど200社が上場した当時、リーマン・ショックが起こりました。2008〜10年くらい。その時が一番少なくて上場社数は十数社です。

池田:そんなに少ないんですね。

上野:1/10以下に減る。そうなると引き受けマンのコストは丸かぶりになってしまう。これは変動できないわけです。急にやめさせられない。でも、コンサルタントなので収益を生むような動きもできない。「株や債権を売ってきてください」と言うと「いやあ…」っていう人たちが多い。そうなるとコストにしかならない。

だから証券会社とすると引き受けマンを増やして、150社のキャパを増やすことはしにくい。なので、おのずと750社という数字が固定化されてしまうんです。それが今の現状ですよね。
現在は5つの証券会社がメインですが、裏では5つ以外の証券会社にも「主幹事参入しましょうよ」と働きかけをしています。何社かは前向きな話があるので、このあたりは乞うご期待ですね。

 

池田:なるほど。するとまたプレーヤーが変化する可能性もあるんですね。引き受けマンの能力が、ある種限界に達しているので主幹事難民が起きている。原因は証券会社側にあるという構造になっているんですか?

本当は、主幹事難民は存在しないのでは?


上野:今回、テーマの主幹事難民という言葉につながりますが、正確に言うと主幹事難民は存在しないと我々は思っています。能力があり、上場できる会社のことを前提として難民と呼びますが、体をなしていなかったら難民という言葉に当てはまらない。

「主幹事を受けてください」と伝えた時に発行会社は予算を提出します。この予算を提出して「予算通りに推移するのであれば、上場する会社として規模感が達する。そうであれば上場できるよね」という流れになるんです。提出する予算は、1年目の直前々期の利益が1000万。直前期の利益が3000万。そして申請期。上場する時が3億です。3億あったら上場できる。だけど1000万、3000万という時に「3億になるよね」という蓋然性はない。でも証券会社は「主幹事をやる・やらない」の判断をしなければいけない。これはなかなか無理なこと。だから「主幹事は受けられません」という回答になるんですよね。

天野:確かに。

上野:そこで、上場をしたいと考えている企業の思い。それを受けてあげたい証券会社の思い。ここのギャップはどうしても出ちゃう。証券会社の人ともたくさん話しをしますが、「受けたいけれど難しい」という話もある。
先ほどのような予算を出して、3億を出す会社は、ある一定の割合でいるんです。上場できるんですけど、これを見抜けというのも酷な話で。

池田:金融のプロではあるもののビジネスのプロではない証券会社としては、いわゆるスタートアップ起業の売上利益が2次関数的に伸びていくビジネスモデルを想像するのはなかなか大変。
その未来予測に対して、主幹事として大きなリスクは張りづらいことが、証券会社が抱える問題なんですね。経営者側はそれをしっかりプレゼンテーションなりア
ピールをする能力がこれから求められてくる。

上野:そうですね。だから証券会社が「これ受けられない」。蓋然性を保管するようなデータであったり対策であったり。そういうものは示してほしい。それによって「受けられる」「受けられない」という蓋然性が変わると思います。

池田:主幹事難民は事象として起きているけれど、よく見てみると「本当に難民なんだっけ?」みたいなことがあるんですね。

上野:そういうことですね。ただ、冒頭に話しましたが監査法人。
監査難民というものが解消され、証券会社の受けるキャパシティが一定である以上、かつてよりも受けてもらえなくなっている会社の数が増えているのは間違いない。そこを解消していってあげたいし、先ほど話した3億にいく会社を発掘していく。それも証券会社や我々の役目かなと思っています。

 

主幹事を受け入れてもらうには


澤野:なるほど。では、監査難民ではないけれども主幹事を受けてもらえない経営者や会社はどういうアクションをしていくのがいいのでしょうか。

上野:そうですね。IPOに向けた体制は絶対必要なんですよ。例えば労務。今、よく言われている論点のひとつです。
でも、労務における解消や是正は時間がかかる。1〜2年くらい時間が必要な項目なので、そういったものは早めに対策しておかないと、いざ主幹事や証券会社と契約できて上場準備が始まったという時に手遅れになる。そうしたものは早め、早めに対策をしていっていただきたいですね。

でもこれは証券会社と一緒にスタートしないと分からない項目でもあります。個人的には上場やスタートアップ企業が大好きなんですよ。我々がスタートアップを支援する理由もあって。我々個人ができる範囲は決まっています。Payment Technologyができる範囲もある程度決まっています。でも優秀な企業家がたくさんいて、その企業家たちが徒党を組むのではないですけど、各ポジションで大活躍をして、その会社が大きくなることは国にとっても世界にとってもいいこと。そういった企業や企業家をたくさん支援して、上場することを通過点として進んでいっていただけることがやりたいことなんですよね。上場を目指す企業の支援。

なので、主幹事難民になっている企業の方々を証券会社の代りにお手伝いしますし、指導します。労務やガバナンス、組織の作り方。管理の仕方。そういったところを我々がコンサルティングとして入ります。「3億は絶対にいく。でも受けてくれない」という企業様はどんどんお声がけをください。我々が支援させていただければと考え、プログラムを作りました。ぜひ、お問い合わせいただけたらうれしいですね。

池田:主幹事を探しているけどなかなか受け入れてくれないという会社さんはPayment Technologyの上野さんまでぜひお問い合わせください。

上野:最後はPRになってしまいましたけれども、本当にスタートアップ支援はこういうことなんです。

 

池田:営業利益だけで見たら赤字の会社でも、実は大きく広告宣伝を踏んでいて赤字なだけで、そこが反転したら利益になる。1年で3000万が3億円。もしくはマイナス3億円がプラス3億円。そういうことも生み出せる世の中なのに、証券会社がなかなか判断をつけられないというのは、確かに起こりうる現象。めちゃくちゃ勉強になりました。

 

上野:1000万、3000万、3億で断っている証券会社の営業担当や引き受け担当と話をしますが、みんな分かっているんです。断っている中でも10%は本当に3億円にいく会社がある。それぐらいの割合なのも、みんな分かっているんです。
でも「泣く泣く断らざるを得ないんだよね。余裕があったら全部受けたい」って言っています。だけど「うちにもキャパがあるんで…」って。そこで「どうにかして支援したい」と伝えると高い割合で証券会社の方々も我々の話に賛同してくださっているので、本当に広めていきたいなと思います。

池田:なるほど、分かりました。まさに「IPOの相談をしたい」という方はぜひ、上野さんまでお問い合わせください。
今日はありがとうございました。

上野:ありがとうございました。

 

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