
目次
採用担当が気づいた、意外な数字
イギリスの通信会社ヴァージン・メディアで、採用の責任者がある疑問を持った。毎年たくさんの応募者を落としているけれど、その人たちは、うちのお客さんでもあるんじゃないか。
調べてみると、答えは想像以上だった。不採用にした応募者のおよそ18%が、自社のサービスを使っているお客さんだった。そして、落とされたあと、そのうちの少なくない人が契約を解約していた。年間で約7,500人。失った売上は、年間約440万ポンドにのぼると試算された。
採用で人を「落とす」たびに、会社はお客さんも失っていたことになる。
日本でも、同じことが起きている
これは遠い国の話ではないと思う。
日本の就活生300人に聞いた調査では、志望度の高い企業から不採用の通知を受け取ったあと、85%が「その企業を嫌いになった」と答えている。そのうち43%は「その企業の製品やサービスを今後使わない」、23%は「周りにおすすめしない」。不採用通知の印象を聞くと、83%が「形式的で冷たい」と感じていた。
採用の担当者からすれば、大量の応募に一つひとつ丁寧に返すのは大変だ。でも、受け取る側にとっては、それがその会社との最後のやりとりになる。
飲食や小売なら、もっと身近だ
飲食店や小売店のアルバイトなら、この話はもっと身近になる。
以前も書いたけれど、お店で働きたいと応募してくる人の多くは、もともとそのお店のお客さんだ。雰囲気が好きで、何度も通って、「ここで働きたい」と思って応募してくる。その人を不採用にするとき、お店は応募者をひとり断っているだけではなく、常連さんをひとり失っているのかもしれない。
逆に、好きになる人もいる
ただ、同じ調査には、反対の声もあった。
不採用の通知を「心のこもった温かいものだった」と感じた人が17%いた。落ちたのに、その企業を「好きになった」人も10%いる。理由として挙がっていたのは、面接で話した内容を覚えていてくれたこと。個別に応援のメッセージをくれたこと。そして、通知の中に「いつか一緒に働きたい」という一文があったこと。
不採用という結果は同じでも、伝え方ひとつで、縁が切れるか、つながりが残るかが変わる。
「二度と来るな」と思っている人は、いない
ここで、採用する側の気持ちも書いておきたい。
面接で落としたからといって、「二度と来るな」と思っている採用担当者は、たぶんいない。募集の枠が限られている。求めている経験と少しずれている。勤務できる時間が合わない。断る理由のほとんどは、そういう枠や条件の話だ。その人のことが嫌いになったわけではないし、できればいい関係を続けたい。ただ、今回はどうしても入ってもらうのが難しい。それだけのことだと思う。
でも、その気持ちは、なかなか相手に届かない。断られた側からすれば、理由のわからない一通の通知だけが残る。落とす側も、落とされる側も、本当は関係を悪くしたいわけではないのに、気まずさと、少しの悔しさだけが残ってしまう。人と人とのあいだでやると、どうしても感情が入り込んでしまう部分だ。
私たちの視点
だからこそ、関係を切らずに残していくことが大切だと、私たちは考えている。
不採用は、つながりの終わりではない。今回は枠や条件が合わなかっただけで、応募してくれた人は、その会社に興味を持ってくれた人だ。半年後、一年後には、ぴったり合う仕事があるかもしれない。お客さんとして、また会うかもしれない。
人と人とのあいだで、その気持ちを毎回うまく伝えるのは難しい。それなら、仕組みの側で、いい関係を続けられるようにすればいい。不採用になった人とも、会社と直接つながったままでいられる。会社は、次に合う仕事が出てきたときに、その人に声をかけられる。私たちは、タレントバンクというサービスの中で、それをやっていきたいと思っている。
「お祈り」ではなく、「またいつか」
採用は、選ぶ仕事だと思われている。でも、選ばれなかった人の数のほうが、ずっと多い。
その人たちに、何を残すか。冷たい「お祈り」で、お客さんを失うのか。それとも、「またいつか」で、つながりを残すのか。採用の本当の差は、もしかすると、落とし方に出るのかもしれない。
出典:Virgin Media事例(元採用責任者グレアム・ジョンソン氏の講演、LinkedIn Talent Blog「Bad Candidate Experience Cost Virgin Media $5M Annually」ほか)=2014年、不採用応募者の約18%が自社顧客、約7,500人が解約、年間約440万ポンドの損失(各事例紹介で細部の数字に差あり)/ABABA総研(2024年3月1日、2024年卒業予定の学生300名、2024年1月31日〜2月9日)=志望度の高い企業から不採用通知を受けた後、85%が「その企業を嫌いになった」、そのうち43%が「製品・サービスを今後使わない」・23%が「周りにおすすめしない」、83%が通知を「形式的で冷たい」、17%が「温かい」、10%が「好きになった」。